
F2がもたらした転機
デビュー24年目にして待望の舞台へ。「せっかくこの仕事に就いたので、1度でいいからGⅠを走ってみたかった」。今年初めてA1に昇級。大村の九州地区選でGⅠ初出場が決まっている。A2は通算21期。あと一歩届かなかった数字に到達できたのは意外な要因だった。「特別なことはしてないけど、きっかけというと芦屋のFですね」。1R1号艇のシード番組で機力でみても優勢。勝てる条件はそろっていた。それでも、勝たなければという思いが必要以上の焦りを生んだ。
「頑張ろうとしたら力が入って、Fしてしまうことが多かった。この時のF2で初めて自分を見つめ直しました」。3年前のこの痛恨の一戦が転機になった。「もともとメンタルが弱いのは分かっていた。調子がいい時は気持ちも強くなれるけど、悪い時にはバタバタしてしまう。それを反省して、どんな時にも力を抜いてリラックスするように心がけました」。肩の力を抜くと視野は広がり、安定感も高まる。マイナス要素がプラスに働き、結果がついてきた。
継続してきた努力が結実
デビューからこれまでを振り返ると、まず旋回力の向上に力を入れた。目に飛び込んで来たのは、同じグループのうまくて強い先輩たち。「瓜生正義さん、岩崎正哉さんを目標にしてました。やってできるようなものではなかったけど、それがあったからここまで来れたのかなとも思います」。近くて遠い存在を追いかけた。次に取り組んだのが調整面。「最初は乗ることばっかりだったけど、10年くらいたってからペラを考える面白さが分かってきた」。
その成果が今につながる。「ペラのベースができたことで、思った旋回ができるし、レースの組み立てもできるようになった。少しは粘り強い存在になれたのかなと思います」。調整の指針が定まり、成績向上にも寄与。「精神面とか調整面とか、うまいタイミングで重なったのかなと思いますね」。初A1に初GⅠ。これは長く続けてきた努力の成果であり、そのご褒美とも言えそうだ。
仲間とともに喜びを
ピットではいつも朗らかな印象。笑顔で話す姿もよく目にする。選手として人との関わりを大切にし、楽しむことが人生のモットーだ。今回の取材でもそんな彼の人柄が伝わるエピソードがあった。先輩との関係では、葛藤を打ち明けられたことをとても喜んでいた。自分の存在を認められ、距離が縮まったことがうれしい。後輩との関係でも、話す内容は喜びについて。まな弟子の浦野海が師匠の自分の成績を超えようと努力している事実を知り、「うれしいですよね」と笑顔を見せていた。ヘルメットに描かれた家族の存在も含めて、周囲の人との心の繋がりが選手生活の大きな部分を形作っている。
そしてもう一つ、待望のGⅠ戦でどうしても果たしたい目標がある。「特別に力を入れることはないけど、GⅠにはこの1回しか行けないかもしれないので、水神祭だけはやってやろうと思っています」。そんな思いを周りに伝えると、「一緒に落ちますって言ってくれて。うれしいですよね」とまた感謝の気持ちがあふれていた。GⅠ初1着を何とかこの機会に。2月の大村、寒風の中、水をしたたらせながらも、寒さを吹き飛ばす笑顔のシーンが待っていそうだ。