水上では“堅実”派
“お祭り男”、“艇界一のエンターテイナー”。西山貴浩にふれるとき、必ず付いて回る言葉だ。もちろん選手紹介におけるパフォーマンスやイベントゲスト、インタビューでの爆笑トークは他の追随を許さない。しかし水上での西山はこのイメージとは全く異なる仕事ぶりを見せる。その特徴を一言で表すなら“堅実”だ。
これまで15年近い選手生活でフライングはわずかに9本。同じくFの少なさで知られる寺田祥よりも事故率は低い。
「選手になったとき、しつこく言われたんですよ。〝絶対フライングするな〟って。ボートレーサーの仕事は走ることでしょ。F休みは一番避けなきゃならない。自分はとにかく走り続けます。死ぬまで泳ぐマグロスタイルです(笑)」
その結果得たのが、まれに見る安定感だ。2011年前期から丸10年に渡ってA1相当の勝率をマークし続けている(2017年後期のみ出走回数が足りずにA2級)。だが安定感だけでは記念戦線を勝ち抜けないのもまた事実。GⅠやSGでは準優の壁が大きく立ちはだかった。そこで見つかった課題がスタートだった。
スタートに活路を求める
「エンジンを出すことも大事だけど、記念になるとSで後手に回ったら終わり。タイミングだけじゃなく質の高いSをどれだけ行けるかです」
西山の対策はシンプル。その道の第一人者にアドバイスを求めた。
「去年のグランプリトライアル(初日)。菊地孝平さんが02のSを行った。あり得んでしょ。それで聞いたんですよ。〝何でそんな早いのを行けるんですか?〟って。いろいろ教えて頂いた。菊地さんは感覚的ではなくて、ものすごく具体的に話す方なんです。普通の人間の限界がこのくらいだから、そこまでは誰でも行ける。後はそこから、どのくらい突っ込めるかを考えるんだって」
元々研究熱心で「トップ選手のヘルメットのかぶり方までマネしたことがある(笑)」ほどのレースオタク。意識改革の効果が表れるのも早かった。トップSを決める回数も増え、今年に入って若松DC、からつ九州地区選、蒲郡65周年とGⅠで3優出している。
「エンジン出しに関しても意識的に自分のスタイルを変えています。パンチを付けるために、これまで以上に伸びを求めているし、本体整備を含めて先手先手を取って調整するようにしている。もちろんリスクはあるけど、やらずに後悔したくないんで」
グランプリへの思い
現在の賞金ランキングは22位(5月15日現在)。まだ経験していない年末の舞台への思いも日に日に高まっている。
「ボクは去年(グランプリ)シリーズだったでしょ。あれね、長いんですよ。(開会式の)選手紹介でグランプリ組が出てくるまで。早くしろってね(笑)。自分が18人に入ったら?もうめちゃめちゃ引っ張ってシリーズ組を待たせますよ。賞金を積み重ねるためには、とにかく優出し続けることですね。チリも積もれば作戦(笑)。そうすればどこかでチャンスもきますから」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で無観客レースが続いている。「自分はお客さんからパワーをもらっている」と日頃から語る西山も一日も早い日常への復帰を願っている一人だ。水面にファンの声援が再び響き渡るとき、勢いに乗って大活躍する西山の姿も見られそうだ。