長年の宿題をクリア
17歳でのデビューから一年足らずで初優出に初V。23歳だった選手生活6年目にはSG初優出に初Vまで達成。岡崎恭裕のヒストリーは、まさにやまと世代の先駆者そのもので、〝ニュージェネレーション〟という言葉が最もふさわしい選手だ。
しかし、これだけセンセーショナルな活躍をした岡崎でさえ時間がかかったのがGⅠ初V。
「SGは勝っているわけだし、焦りは一切なかった。周りから言われるのが嫌だっただけで」とちゃめっ気たっぷりに笑うが、今年3月の江戸川ダイヤモンドカップでデビュー13年目にしてようやく〝ボート界の七不思議〟を解消させた。
「いつかは取れると思っていたけど、時間がかかりすぎましたね」。
悔しいレースは数知れずあるが、『あの時ああしておけば』というレースは一切なかった。それが全てのレースに全力投球する岡崎の流儀だからだ。ただ、この本音も岡崎らしい。
「もしこのまま取れなかったから、かっこ悪いなぁとは思っていましたけどね(笑)」
ターニングポイントになった2016年
長年の宿題を終わらせられたのは、もちろんレーサーとしての成長があったからこそ。昨年はSG初Vを飾った2010年以来、6年ぶりの出場を果たしたが、2016年は選手としてもターニングポイントだった。
「最初にグランプリに出てからはずっと出られなくて、選手としては沈みっぱなしだった。ここまでロクな努力もせずに来て、積み重ねたものがなさ過ぎましたね。でも、昨年は久しぶりにグランプリに出られて、やっとステップアップできた実感がある」。
グランプリへの考え方を変えられたのが、何よりの収穫。SGやGⅠを何一つ勝たずに出場できたことで、一つ一つの積み重ねの大事さを思い知った。
「いつもどこかで大きいのを勝たなければと思っていたけど、ずっとGⅠを勝てなかったようにレースは思い通りにならない。昨年にグランプリを走れたことに関しては、『カッパの色が変わった』ぐらいのものだけど、タイトルなしでグランプリに行けたことで、1年、特に11カ月間の過ごし方の考え方が思い切り変わった」
相手を知り己を知る
だからこそ、今年は今までと違う感覚だという。2017年は「初めてグランプリに行こうと思ってスタートした年」だとも。
感覚が変わったのは、それだけではない。ボート界の最高峰で戦い続けたいと明確に意識したことで、今まで目を背けていたことにも素直に目を向けられた。
「今までは、見ないように、比べないようにと思っていたけど、カヤピー(茅原悠紀)や竜ちゃん(峰竜太)のターンは本当にすごい。スネないで素直にそう感じられるようになった。彼らと本気で戦っていくなら、もっともっと自分のスキルアップをしなければならない。ここら辺が少し成長できたところなのかな」。
孫子の兵法書には、〝相手を知り己を知れば百戦危うからず〟という言葉がある。これは今の岡崎にピッタリ当てはまる。
「ボート界のエースだとか、業界を引っ張るとかは元志や竜ちゃんに任せますよ。自分はそんなタイプじゃない。でも、そんな彼らと戦うのは楽しいし、戦うためにもグランプリには行きたいと、今は素直に思っていますよ」。
この境地にたどり着くまでに、時間はかかったかもしれない。だが、天賦の才能に、努力、そして自覚も加わった今、ボート界の頂に立つ準備は整った。