野球でいうドラフト1位 順風満帆な船出
創生期からボート界の強豪支部として名をはせる福岡支部の系譜を継ぐ男。これは仲谷颯仁の現在を表す枕詞(まくらことば)だ。プロ野球でいうドラフト1位に該当する115期生の在校勝率1位で、デビュー5期目にしてA1に昇格、2年目には初V、3年目にはGⅠ初Vととんとん拍子で出世。成し遂げた功績はボート界の〝大谷翔平〟と言っても過言ではない。
はね返された〝上の世界〟 へし折られた鼻
SG、GⅠにも定着したが、3年目に勝った九州地区選以降はタイトルに無縁。さらには2年前にはF2を犯してしまい、まさかのA2級降格と近年は足踏み状態が続いている。「今思えばですけど、デビュー当初に活躍できたのは自分の力ではなかった。師匠の川上(剛)さんや先輩の西山(貴浩)さんはもちろん、引き立ててくれた地元の施行者さんやいろんなお膳立てがあっての成績でしたね。勢いでイケイケどんどんだったから、そこに気づけていなかった。勘違いしていましたね」
転機になったのは2年ほど前。自らの状況を鑑みて自らに危機感を感じたという。「ちょうど地区選を勝った1年後ぐらいでしたね。SGやGⅠで全く通用していないと。ペラ調整はもちろんだけど、ターンの質、レースの組み立て方、メンタル、ここからは自分の力で伸びていかないといけないと痛感しました。F2は実力が伴っていないのに、勝ちたい焦りがつのっていた結果でしょうね」
新たな自分 見据える未来
確かにタイトルからは遠ざかっているが、本人の思いは別。トンネルを抜け出す方法は見えている。「整備力も旋回力も。なだらかでいいから右肩上がりに成長することを心掛けていれば、いつか頂点にたどり着ける。毎日、今日の自分を超えていく。これを意識しだしてから、結果は出ていなくても手応えを感じています。焦る必要はない。26歳の選手にしては、いい経験をさせてもらっていますから」。今は焦らずゆっくりと新たな〝仲谷颯仁〟を作っているのだ。
ただ、それでもSG、GⅠに定着できたことは大きな財産。トップレーサーと同じ時間を過ごすことで、自分の足りないことも見えてきた。その一つが〝プランニング〟。「〝目の前のレースを全力投球する〟のは大事だけど、それだけではダメ。グランプリにずっと出ているようなトップの人たちは、常に〝先〟を見ている。一年をどう過ごすか、どこで勝負に出るか。5年先、10年先の自分を見据えて、今を動かなければいけない」
では、その5年先、10年先の〝仲谷颯仁〟とはの答えは明確だ。「時代は必ず変わるのだから、その時代を変える人間になりたい。峰竜太さんや毒島誠さんを超えて、ボート界の中心になれるように」。そのためにも今年にやることはただ一つだとも。「SGでもGⅠでも何でもいいから、今年中に2つめのタイトルを取ります」。今はまさに竜が天を登る前の雌伏の時。画竜点睛の時はもうすぐだ。